SMA患者さん・ご家族のお話
佐藤さんご家族
「懸命な治療とリハビリのおかげで、
信じられないほど楽しく暮らせています」

脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy:SMA)の3歳の息子さんを育てる佐藤さんご夫婦。息子さんが生後4週5日でSMAと診断されるまでは原因も分からず不安と恐怖でいっぱいで、その時期が一番つらかったと振り返ります。
治療法があると知って1歩前に踏み出せたこと、懸命な治療を経てリハビリに励む日々の中で感じていること、普段の生活の中にリハビリを取り入れる工夫、そして息子さんとの将来について、さまざまな“今の想い”を伺いました。

現在、息子さんは人工呼吸器を外せる時間が増え、食べる楽しみを知り始めたそうです。「当時を振り返ると、今、家族で楽しく暮らせていることが信じられないくらいです」と話す佐藤さん。たくさんの仲間や医療スタッフの方々の手助けも得ながら、今後も生活の中で楽しくリハビリに取り組んでいきたいと話しています。

佐藤さんご家族

治療とリハビリのおかげで、
楽しく暮らせる毎日に感謝

SMA診断まで不安と焦りの日々
「治療法がある」と知って、やっと前に踏み出せた

お母さん:妊娠中、臨月に入った頃に急に胎動が減ったので、その時から「あれ、おかしいな」と異変を感じていました。妊婦検診では何も異常はなかったのですが、不安を抱えながら出産を迎えました。すると、やはり息子は生まれた直後から呼吸状態が悪く、すぐにNICU(新生児集中治療室)のある大きな病院に転院しました。

一時的な呼吸障害の疑いで『しばらく様子見』と判断されたのですが、呼吸状態は日に日に悪くなるばかりでした。いろいろな検査をしてもはっきりとした原因も分からず、呼吸が急激に悪くなることも度々あって、何かあったらどうしよう…と不安と恐怖で押しつぶされそうな日々でした。

お父さん:呼吸ができず顔が紫色になった息子を見ても、何をしたらいいのか分からず、あの時は本当に冷や汗しか出ませんでした。原因が分かれば何かしら対処できるかもしれないのに、という焦りと、このまま何も見つからなかったらどうしよう、という不安しかありませんでした。

お母さん:生後2週間で遺伝子検査を受けられるとなった時は、「やっと原因が分かるかもしれない」とほっとしたのを覚えています。検査をして4週と5日でSMAと診断されました。SMAが疑われることは検査前に告げられており、覚悟はしていたつもりですが、いざ息子がSMAだと分かった時はやはりショックで、「この子は一生歩けないし、一生好きなこともできないんだ…」と一瞬、絶望感でいっぱいになりました。

お父さん:説明されても、何の病気なのかまったく分からなくて戸惑いました。診断されてからインターネットでいろいろ調べて、そこでようやく重い病気なんだと気づきました。

お母さん:でも、その時、主治医の先生が「治療法があります。」と繰り返しおっしゃってくださったので、「落ち込んでいる場合じゃないんだ、早く治療をしなければ…!」と、次の日には気持ちを持ち直すことができました。当時、夫婦共に余裕がなくて、息子の病気について前向きな会話ができていなかったのですが、『治療』という目標を持てたことで、2人で1歩前に踏み出すことができたんだと思います。

お父さん:先生方から、こんなに早く治療が受けられたのは息子が初めてだと言われたことも、前を向く後押しになりました。

お母さん:その後は、主治医を始め医療スタッフの方々が、“早く治療を受けられるように”と迅速に動いてくださいました。とにかく先生方が「1日でも早く治療を始めた方がいい」と強調されるので、SMAという病気は早期治療が重要なんだと痛感しましたし、「本当に落ち込んでいる暇なんかないんだ」と改めて強く思いました。

リハビリはひとつひとつの積み重ね
何気ない日常生活の動作もリハビリの一環と意識

お母さん:治療を始めてしばらくすると、息子の手足の動きがすごく変わってきて、足は太ももから持ち上げることができるようになり、腕も肩から上がるようになりました。人工呼吸器は必要でしたが、呼吸も安定し、泣いて顔が紫色になることはほとんどなくなりました。その頃には「息子を家に連れて帰りたい」と思うようになっていました。

治療が進む中、退院後の生活に向けたリハビリテーションも始まりました。入院中も退院してからも大変なことや、病院にお世話になることはありましたが、現在まで元気に生活できているのは治療のおかげだと思っています。

今受けているリハビリは、PT(理学療法)、OT(作業療法)、ST(言語聴覚療法) の3つです。PTはストレッチやマッサージ、OTは玩具などで遊びながら手を使う練習、STは嚥下訓練が中心です。

:PT(理学療法):寝返る、起き上がる、歩くなど基本動作の訓練から次第に体を自由に動かせるように導き、運動機能の維持や改善を図ること。温熱療法や電気による治療法を取り入れることもある。
OT(作業療法):食事や入浴、着替えなどの日常生活の動作や作業を通して、その人らしく生活できるように援助すること。
ST(言語聴覚療法):さまざまな原因によって生じるコミュニケーションの障害に対し、言語発達を促す練習や発音練習をしたり、食べ物を食べたり、飲み込めるようになるための指導、助言をすること。

現在、リハビリは主に自宅で励んでいます。PTは、まず、ストレッチをしてからうつ伏せの姿勢になります。そうするとプッシュアップの動きが必要になるので、腕や首の筋トレにもなります。他には、座位の練習で、座位保持装置に座った姿勢でボールを投げたり、足でボールをキックしたりもします。

PTはつらい姿勢をとらなければならないため、最初は泣いて嫌がっていた息子ですが、最近は“やらないといけないんだ”と理解して毎日頑張ってくれています。リハビリの成果だけでなく、こういった精神面でも成長を感じることが多く、とても嬉しく思っています。

また、普段の生活の中でも、軽くストレッチをしたり、バランスボールに乗って背中を伸ばしたり靴を履いて足踏みしてみたり、なるべく普段の生活の中にリハビリの要素を取り入れるように心がけています。

歯みがきや着替えなどの何気ない日常生活の動作も、息子にとっては大切なリハビリの一環です。自分で服を着たり、脱いだり、ズボンを履く時はお尻を上げたりすることがとても大切です。歯みがきも自分で歯を磨いてますし、吸引器を持たせると自分で口の中を吸ったりしているんですよ。

時には甘えてくるときもありますが、できるだけ「頑張って自分でやろうよ!」と声をかけています。成長とともに「自分でやりたい」という気持ちも大きくなってくると思うので、頑張ってできた時は「できたね!すごいね!」と褒めています。すると息子も自分で拍手をしています。リハビリスタッフの方々も、思わず親の方が嬉しくなってしまうほど褒めて息子のやる気を引き出してくれるので、親子で前向きにリハビリに取り組めていると思います。

リハビリでは、ひとつひとつの積み重ねを大事にしています。その成果で、私たちが手助けをしなくても、自分でできることが徐々に増えてきたと感じています。大きくなったら自立した生活が送れるように、今後も積極的にリハビリに取り組んでいきたいですし、親として支えていってあげたいと思っています。

リハビリの成果で呼吸器を外せるように
食べる楽しみを知ってくれたことが、親として何より嬉しい

お母さん:嬉しいことに、治療とリハビリの成果で、まず、呼吸が安定して呼吸器を外せる時間が延びてきました。呼吸器を外せる時間が増えたのは本当に大きな変化で、本人も動きやすいですし、普段の生活でも、外遊びやお出かけの時にもとても助かっています。

室内では、呼吸器を外した状態で背ばいをしたり、台車に乗って部屋の中を自由に移動できたりするようになりました。

これは、荷物などを運ぶための台車なのですが、インターネットなどでも気軽に購入できますし、本人も移動しやすく、リハビリにもなるので大活躍しています。
この台車のアイデアは、SNSを通して知り合った、同じ病気のお子さんのお母さんに教えてもらったんですよ。
SNSは同じ病気の方やご家族とも繋がれますし、情報交換をするのに大切なツールのひとつになっています。いろいろな方から参考になるお話しもいただけますし、自分も他の方々の助けになりたいと思っています。

天気の良い日は、お気に入りの公園に行って、呼吸器を外して兄弟で一緒に大きな滑り台を滑ったりしています。お出かけと言えば、最近、私と息子の2人で映画館に行って映画を観てきました。内心、全部観るのは無理かな、と思っていたのですが、そんな心配もいらず、エンドロールまで観ることができました。まさか、息子と一緒に映画に行ける日が来るなんて思ってもいなかったので…、本当に楽しかったですし、感慨深いものがありました。

それと、嚥下訓練では口をマッサージしてほぐしてから、果汁や飴などを飲み込む練習をしているのですが、その成果もあって、嚥下が上手になり吸引回数も減りました。

何より、親として食べることの楽しみを知ってくれたことがすごく嬉しいです。少しでも味わって食べて欲しいので、季節の果物の果汁をあげたり、お芋堀りで掘ってきたお芋を裏ごししてプリンを作ったりして季節の味を楽しませています。本人もすごく喜んでくれています。

家族の会の存在は心の大きな支え
成長した患者さんたちの姿に“未来が見える”希望も

お母さん:私たちの生活は、本当に多くの方々に支えていただいています。病院の先生方、リハビリの先生方、訪問看護の看護師さん、療育施設の先生方と、たくさんの医療スタッフの方々が見守って、必要な時は手助けもしてくださいます。「主治医は誰なんだろう?」と思うぐらい、多くの先生やスタッフの方々がチームで支えてくださっている安心感があります。

それから、SMAの家族の会やSNSを通して知り合った方々との繋がりも、心の大きな支えになっています。SMAと診断される前が一番、気持ちが落ち込んでつらい時期でしたが、その頃は、インターネットで見つけた治療体験記や、患者さんやご家族の声を何度も読み返していました。楽しそうに暮らしている笑顔の写真を見ることが、何より心の支えになりましたし、たくさんの勇気をもらいました。

でも、息子は同じSMAの中でも重症度が高かったので、他のお子さんと比べて気持ちが落ち込んでしまうような気がして、家族の会の入会はためらっていたのです。そんな中、8か月の時に気管切開の手術を終えて帰ってきた息子を見て、頑張って生きている息子を、誰とも比べる必要なんてないんだと気づき、家族の会に入会しました。いざ入会してみると、落ち込むどころか、お友達も増えて、成長した患者さんが社会で活躍していることも知ることができました。

実は、息子がまだ赤ちゃんだった時、ある先生から「SMAのお子さんは、体は不自由だけど心はすごく豊かな子ばかりだから、たくさん刺激を与えてあげてください」と言われことが、ずっと心に残っていて…。家族の会を通して出会えた患者さんも皆さん多才で、その姿を見るとすごく元気が出ます。うちの子も将来、何ができるのかなって、“未来が見えた”ような気がしています。

家族の会では懇談会や勉強会だけでなく、普段から情報交換も活発で、お風呂の入れ方やお出かけの工夫など、日常生活やリハビリで困ったことがあれば気軽に相談しています。同じような境遇の方々と情報をシェアできることは「ひとりじゃないんだ」と思えて心強いし、生活の中で大きなプラスのエネルギーになっています。

私たちがこうやって治療を受けられたり、楽しく生活できたりしているのは、SMAの先輩方の活動の積み重ねがあったからこそだと思っています。家族の会の活動を通して、「自分にもできることがあるんだ」と実感できたことも、自分にとって心の支えになっています。息子にも「先輩たちが築きあげてきたものを、大きくなったら後輩たちにつなげていくんだよ」と話していこうと思っています。

毎日楽しく暮らせることに感謝
できることがひとつずつ増えるのを見守りたい

お母さん:SMAと診断された当時を振り返ると、今、家族で楽しく暮らせていることが信じられないくらいです。怖がらずに治療を受けて、リハビリを頑張ってきてよかったと思いますし、SMAと診断されて、これから治療を受けられる患者さんやご家族にも、「何も心配いりません、大丈夫だよ!」と伝えたいです。

病気によっていろんな制約はあったとしても、できることがいっぱいあると思うんです。「何でもやってみよう!」をモットーに、海にもキャンプにも連れて行ってあげたいし、この子の可能性を信じて、いろんなことにチャレンジさせてあげたいと思っています。

お父さん:今は普通に生活しているので、診断された当初のことは忘れてしまうくらい、本当に息子は成長したと思います。でも、先生からは「SMAの症状は、治療を受けて急激に良くなるものではなく、時間をかけて少しずつ良くなっていくものですよ」と聞いているので、息子には焦らずに接しています。

今は目の前のことにひとつずつ取り組んで、息子が少しずつできることが増えていくのを見守りたいです。その結果、将来自分で行きたいところに出かけたり、喋れるようになったりすればいいと思っています。

お母さん:今後、就学や就職といった心配事も出てくると思いますが、今はリハビリを頑張って、自分でできることを増やしていってあげたいです。そうすることで、これから先の選択肢が広がっていくと思います。将来は住みたいところに住んで、やりたい仕事や生きがいを見つけて欲しいです。それには、障害を抱えていても当たり前に暮らしていける社会であって欲しいと願っています。

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