SMA患者さん・ご家族のお話
西さんご夫婦 
3歳の息子さん、9か月の娘さんとともに
「 不安に感じたら、“親の勘”を信じて相談を」

脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy:SMA)と診断されたお二人のお子さん(取材時:3歳の息子さん、9か月の娘さん)がいらっしゃるご夫婦に、子育ての中で感じたこと、お子さんへの思い、将来への希望などについてお伺いしました。お二人は、一般の方にも医療従事者の方にも、「広くSMAについて知ってほしい」と話します。その上で、SMAは何よりも早期診断・早期治療が大切なこと、不安を感じたら一人で悩まず、病院で相談してほしいと強調されています。

西さんご夫婦
3歳の息子さん、9か月の娘さんとともに

SMAは早期診断が何よりも大切
不安に感じたら病院で相談してほしい

SMAと診断されるまでの苦労

様子見が続き、診断が遅れ、親としての焦りや苦悩も

お母さん:私が最初に「何かがおかしい」と感じたのは、息子が生後3、4か月の頃でした。未就学児のサークルで出会う同じ月齢の子どもたちと比べて、明らかに成長が遅かったのです。月齢が近い子たちは足を踏ん張っているのに、息子にはそういった様子が見られませんでした。それと、周りからはよく「男の子なのに優しい泣き声ですね」と言われていました。でも、初めての子育てで、泣き声の違いもよく分からなかったので、「この子は少し成長が遅いのかな」ぐらいに思っていました。今から思えば、SMAの赤ちゃんは泣き声が小さいことがあると聞くので、SMAの症状の一つだったのかもしれません。

 息子は頭血腫※1があったため、生後1か月から病院に通っていました。その時の主治医の先生にも、息子の成長に違和感があると相談したのですが、「発達には個人差があるので今すぐには必要ない」ということで経過観察となりました。実はその頃、息子がうつ伏せの状態から顔を上げられた“奇跡の日”が1日だけですがありました。先生はそれを見て、しばらく様子を見てもよいだろうと判断されたのかもしれません。

 しかし、その後も息子の様子に変化は見られず、日を追うごとに同月齢の子どもたちとの差も大きくなり、私自身、焦りを感じるようになりました。SNSで、“フロッピーインファント”※2と呼ばれるSMAの特徴的な症状を知ったのはその頃でした。重い病気の可能性があるのでは、という思いも強く、主治医の先生には「早めに専門の病院で診察を受けなくて本当に大丈夫ですか」と何度も、強く訴えてはいたのですが、知能面には問題がないと経過観察が続きました。

 そうしているうちに病状が進んでしまったのでしょうか。その後、一度すわった首が徐々に座らなくなってきてしまい、生後10か月のときに専門病院に紹介を受け、その1か月後にはSMAと確定診断されました。

*1:頭血腫(ずけっしゅ):出産の際に胎児の頭部が強く圧迫されてできたコブ(血液の塊)のこと。一般に数カ月後には消失する。
*2:フロッピーインファント:全身の筋緊張が低下して、体が柔らかくなっている乳児のこと。

SMA早期診断の重要性

“親の勘”を信じて医師に相談してほしい

お母さん:息子の病気を疑った時に、「専門病院で検査したい」ともっと強く言えていたら、と今でも後悔しています。親の勘を信じるべきでした。もし少しでも変だなと思ったら、ためわらずに病院に連れて行って、先生に相談して欲しいです。親が行動することで、1秒でも早く、子どもの病気に気づいてあげて治療できるかもしれません。

お父さん:SMAの早期診断の大切さについては、ある時に聞いた言葉で、「Time is neuron.(時は神経発達なり)」という言葉が的を射(え)ていると思います。診断して、治療を始めるまでの時間がとても重要なのです。

お母さん:まさに、その言葉通りです。SMAは経過観察しているうちにどんどん進行してしまいます。そういった早期診断が大切な病気もある、ということを、小児医療に関わる医療従事者の方々はもちろん、乳児健康診断に携わる保健師の方や行政関係の方など多くの方々にもっと知ってもらいたいと思っています。

確定診断後の気持ち
~頑張ろう!という前向きな気持ちと
不安が入り混じった複雑な感情~

お母さん:SMAの診断を受けたときは、「やっぱりそうか」と思いました。日が経つにつれて他の子どもたちとの差が歴然としてきたので、その時にはもう「病気なのだろう」と覚悟していました。一方で、経過観察の時期には、SNSで「発達遅延」「体が柔らかい」「寝返りしない」などのキーワードで検索してSMAの情報を偶然見つけていました。当時はSMAについてネガティブな情報が多かったので、不安になったりもしました。

 SMAと確定診断された時は、「これからやっと治療やリハビリができる。頑張ろう!」という気持ちが強かったのですが、ふと一人になった時には「この先、この子の将来はどうなるのだろう…」と不安になったりもして、気持ちに波がありました。ちゃんと治療やリハビリをしてあげないと、と自分を奮い立たせていた気がします。

お父さん:私は、やはり、この子の将来がどうなってしまうのか、そのことが一番の気がかりでした。

第2子の出産を決意

出生前診断をしたうえで出産後すぐに治療へ

お母さん:もともときょうだいは欲しいと思っていましたが、二人目を作るのは少し悩みました。二人目もSMAかもしれない、という母親の勘が働いたのかもしれません。その時に、出生前診断※3で生まれる前にSMAかどうか調べられることを知りました。

 夫婦で話し合った結論は、「もし、二人目もSMAだったとしても産んで育てよう」でした。生まれてすぐに治療を始められる環境を整えられれば、きっと大丈夫だと思ったのです。出生前検査の結果、下の子もSMAだと分かりました。先生方など、いろいろな方の手助けもあって、準備をしたうえで出産に臨みました。その甲斐あって、生まれた後にすぐ確定診断を受け、速やかに治療を始めることができたことで、娘は今、SMA特有の症状なく元気にすくすくと育っています。

*3:出生前診断は、2020年12月現在、保険外診療です。

治療やリハビリテーションを
経て感じる
子どもの成長、
先生方への感謝

リハビリは遊びの延長として楽しく取り組む工夫も

お母さん:娘は、念のために運動機能と心理発達を定期的に評価していただいており、今のところ順調に成長しています。息子はSMAの中でも重症度が高いのですが、薬物治療やリハビリを続けており、成長に伴ってできることも少しずつ増えてきました。少しの間であれば自分で座れるようにもなりましたし、ものを飲み込むこともできます。寝返り移動や装具を装着すれば数十秒自立し身体を動かす事ができるようになりました。最近では、戦隊シリーズの変身動作も1人で立ちながらできるようにもなったんです。
ただ、最近は、体幹が弱く、後弯(こうわん)※4が出始めていることと、体が大きくなって、活動量が増えているのに筋肉量が足りないので、低血糖になりやすいことが気になっています。

 リハビリテーションは、今は訪問リハビリと通院リハビリの両方をお願いしています。リハビリでは、装具をつけ立位台に立って骨盤や体幹のバランスを取れるようにしたり、膝が固まらないようにストレッチしたりして親子でも運動機能の維持向上に努めています。

お父さん:息子は、リハビリを遊びの延長として捉えているようです。体を動かすのが好きで、バランスボールの上で背筋を伸ばしたりするのがお気に入りです。

お母さん:装具を着けてダンスをしたりもするんですよ。リハビリの先生方は、息子の気分を上手く乗せてくれるので、息子にとっては一緒に遊んでいる感覚なのかもしれません。

*4:後弯:背骨が後ろに曲がっている状態のこと。

チームのように息子を見守る医療従事者の方々に感謝

お母さん:SMAの治療には、主治医の先生やリハビリの先生、整形外科の先生、理学療法士さんや作業療法士さんなど、幅広い分野の先生方に関わっていただいています。発達で気になることは療育施設のスタッフの方にも相談に乗っていただいています。

お父さん:親のほうから積極的に質問や相談をしたほうが、医師や療法士の先生方も喜ばれているように思います。子どもたちの状況をより深く考えてくれて、より良くするためのアイデアをいただくこともあります。

お母さん:特にリハビリの先生は親と同じ気持ちになってくれて、とにかく諦めないで息子と接してくださります。「(できなくても)仕方ない」という言葉は絶対に言われず、「これだけできればいいでしょう」という線引きをされません。「もっともっとできるよ!」と息子だけでなく、親の私たちの気持ちも盛り上げてくださります。

 それぞれの先生方がいらっしゃる病院は一つではないため、多くの病院を探すのは大変でしたし、自宅から遠くて通院も楽ではありませんが、専門的な面からいろいろ教えてくださる先生、実際に治療してくださる先生、リハビリをしてくださる先生など、それぞれの役割の先生方が一つのチームになって息子を診てくれていると感じていますし、感謝しています。

SMA家族の会の仲間たちが大きな支え

悩んでいても「一人じゃない」

お母さん:息子がSMAと診断されてすぐに「SMA家族の会」に入りました。SMA家族の会では、先輩の会員さんに温かく迎えられ、居場所が得られたときの感謝は今でも忘れません。子育てに追われる毎日で不安も抱える中、SMA家族の会は心の拠り所になっています。

 歳が近く、息子と似た症状を持つお子さんを育てているご家族とも知り合えたことは、とても心強かったです。コロナ禍になって、SMA家族の会の会合もオンラインで開かれるようになり、全国のSMA患者さんやご家族と知り合うことができました。SNSでの情報交換も活発で、住まいは遠くても気持ち的には近い存在です。

お父さん:家族同士がつながって、情報交換することは大切だと思います。

お母さん:SMAの子どもを持つ保護者の“生の声”を聞くことができるのは、SMA家族の会ならではだと思います。疑問や悩みをぶつければ、必ずアドバイスが返ってきます。バックに心強い仲間がいるようで「一人じゃないんだな」と感じます。私も先輩方にいていただいたように他の方の疑問や悩みにできるだけ応えていきたいし、相談してもらえるような人間関係を作っていきたいと思っています。

子どもたちの将来のために願うこと

障がいがあっても当たり前に生きられる社会に

お母さん:今年の春には、息子は幼稚園に入園する予定です。ただ、息子を受け入れてくれる園を見つけるまではとても苦労しました。1軒1軒、何軒も電話で問い合わせたのですが、多くの園では「歩けない」ということを理由に電話口で断られてしまいました。幸いなことに、自宅からは遠いのですが、快く受け入れてくれる園にようやく出会うことができました。障がいのある子どもたちにとっては、まだまだ生きづらい世の中だということを痛感した経験でした。

 園に見学に行ったときには、息子のところにお友達が自然と集まってきて、普通に遊んでいたのが印象的でした。子どもの社会性に驚かされましたし、障がいがあっても他者とコミュニケーションを取ること、社会に出て行くことの大切さも実感しました。

将来への期待

お母さん:息子には、治療やリハビリの効果が、少しずつですが現れていますし、いつかは、私たちが当たり前のように思っている生活を送れるようになってくれればと思います。本当に些細なことですが、自分が行きたいところに自分で行けたり、取りたいものを自分で取ったり…、誰かにお願いしなくても、自分がしたいことが自分でできるようにさせてあげたいです。今、本人が持っている力を伸ばしていけるように精一杯サポートしていくつもりです。それには苦しさ、大変さよりも、日々の生活の中での「楽しさ」にも目を向けていくことが大切かなと思います。

お父さん:それから、SMAは遺伝子の変化が原因で発症する疾患です。できるだけ早く治療を始められるかどうかが、子どもの将来には重要になります。1日でも早く治療ができるように、例えば、「新生児マススクリーニング」※5にSMAが加わって、より多くの赤ちゃんが生後すぐに検査・治療できるようになるのを願っています。

*5:新生児マススクリーニング:生後4~6日目の全ての新生児を対象に、先天性代謝異常症などの病気を発見するための検査。

読者へのメッセージ

~わが子がSMAかもしれない…と不安に思っている親御さんへ

わが子が何か病気なのでは、と思うと、とても不安になると思います。ただ、SNSやインターネットで調べるだけでなく、もう少しだけ勇気を出して病院に連れて行ってほしいと思います。私は「親の勘」は100%間違いないと思うので、ご自身の不安や違和感などの思いを直接、病院の先生に伝えて欲しいです。診察してもらって何も問題がなければ、それはそれでいいのですから。

 病気が分かるのは怖いことかもしれませんが、発見が遅れることはもっと怖いことです。1日でも早く病気が分かって治療ができれば、それは子どもの将来にとっても、家族にとっても喜ばしいことです。できることなら、小児神経科の先生がいらっしゃる病院や専門施設を紹介してもらい、先生に相談してください。

 また、SMAの診断を受けたばかりの親御さんは、将来に不安を感じているかもしれません。でも、決して一人で悩まないでください。同じようにSMAの子どもを育てている家族は他にもいます。一人で悩みを抱え込まず、周りに助けを求めてください。きっと握り返してくれる手があるはずです。何度も言いますが、決して一人ではありません。一緒にお子さんを見守っていきましょう。

~小児科診療に携わる医療従事者の方々へ

小児医療に携わる地域の医療機関の先生方には、ぜひSMAなどの早期に発見して治療を始める必要のある病気について、もっと知ってほしいです。もちろん経過観察で様子を見ることが必要な場合もあると思いますが、SMAは診断が遅れれば、その間に病状が悪化してしまいます。

 私たち親は、子どもの病気を疑っても、先生や看護師さんになかなか言い出しづらく、一人で抱え込んでしまっていることも多いものです。先生方には、そういった親御さんが質問しやすい雰囲気を作っていただけたらと思います。例えば、病院や支援センターなどにSMAの啓発ポスターを掲示するなどしていただければ、親御さんたちも「先生、この病気ではないですか?」と尋ねやすくなるのではないかと思います。

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